エムベアレス 第2章.音大生・結衣

「なるほど、地方から上京して東京で一人暮らし。」
「その上、学費も自分も出しているとなると大変でしょう?」

そう言いながら俺は手に取った応募票から目を離し、目の前の応接ソファに座った娘を見やる。
応募票には、面接前に書いて貰った住所・氏名・略歴といくつかの簡単な質問に対する回答が書かれていた。

彼女の名は、有村結衣。
都内にある音楽大学に在籍していて、年齢は二十歳と書いてある。
もっとも、偽名で応募してくる子も多いので、本名かどうかはわからないが。

(有村結衣か・・・)
(なんだか、有村架純と新垣結衣を足して二で割ったような名前だな。)
(おそらく、偽名だろう。)

俺は、そう見当を付けながら彼女を見つめ、返事を待った。

「はい・・・、アルバイトもしているのですが、追いつかなくて・・・」

彼女は、伏目がちにそう答えると、少し視線を上げる。

夏なので、Tシャツにミニスカートという軽装だが、学生には不釣り合いなブランド物のバッグを持参しているし、メイクも爪も艶々していて、金を掛けている臭いがする。

薄着なので、服の上からでもスタイルの良さと肌の綺麗さは窺えた。
平凡な顔立ちだが、顔はメイクで誤魔化せるので、それ程重視していない。

「それで、まとまったお金が必要なのでアダルトをやってみようと・・・?」
「秘密厳守が絶対条件で、できれば顔出ししない仕事を希望。」
「本番はOK。フェラもOK。SMもハードなものでなければOK・・・」
「と、いうことで宜しいですね?」

俺が再び応募票に目を落としながら、そう質問すると、彼女はコクりと頷きながら、「はい・・」と小さな声で答えた。

(行けそうだ・・)と判断した俺は、次の審査に移ることにした。

「わかりました。」
「有村さんでしたら、良い仕事を紹介できると思いますよ。」
「それでは、一次審査は合格というとこで、次は裸を審査したいのすが・・・」
「服を脱いでもらえますか?」

求人広告には、「一次審査合格の場合、裸体審査有り。」と明記してある。
なので、有村と名乗る女子大生は驚きもせず、冷静に問い返しただけだった。
「ここで・・・ですか!?」

「ええ。心配しなくても面接が終わるまで、ここには誰も入ってきません。」と、俺は応接室を軽く見回しながら答えた。

そう言っても、まだ愚図愚図していたので、(AV女優に応募してきて、裸になるのを躊躇しているんじゃねえぞ!)と言いたげな目で軽く睨んだら、彼女はようやく立ち上がり、俺から見て半身な姿勢をとりながら服を脱ぎ始めた。

下着姿になった所で動きが止まったので、「それも。全部脱いで。」と事務的な口調で促すと、ようやく全裸となる。

「前を向いて。」
「隠さない。手をどかして!」
「はい、次は後ろを向いて・・」
と、いう具合に指示を出し、俺は彼女の裸をなめ回すように検分した。

(胸はイマイチだから、やはり表のAVには向かないな・・)
(下の毛は、きちんと手入れしてある。)
(お尻は和尻だな・・)
(デカすぎず、小さすぎずで、良い感じだ。)
(うん、肌も綺麗だし、これならいける・・)

そう見極めると、俺は彼女に服を着るように言い、秘密倶楽部の話を切り出した。

「と、いうわけで、招待された会員の前で、4~50分程度の寸劇を演じて貰うだけの仕事です。」
「拘束は1日だけで、ギャラは100万円。」
「しかも全額日払いで、当日現金渡しです。」

「会員は名士が多いので、秘密保持には特にうるさい。」
「なので、情報が外に漏れることは一切、ありません。」

「希望者にはDVDにした映像を販売していますが、高度に暗号化してあるので、複製は困難です。」
「また、一つ、一つに会員IDを仕込んでありますので、万が一流出しても流出元を特定できるようにしてあります。」
「流出させた会員には高額な違約金を課すことにしてあるので、そういった意味でも秘密保持は万全だと自負しています。」

「有村さんが希望する条件に叶う、うってつけの仕事ですし、この仕事は誰にでも紹介する訳ではありません。」
「有村さんのように素敵な容姿を備え、且つ、まだこの業界の垢に染まっていない、初々しさがあるお嬢さんしか与れないお仕事です。」

「いかがですか?」
そう、切り出すと俺は彼女の反応を待った。

「あの・・具体的には・・」
「どのような、劇をやればいいんですか?」
と、彼女は最終確認とでも言いたげな口調で聞いてきた。

「ああ、肝心なことを話していませんでしたね。」
「この倶楽部は、マイナーな性的嗜好を持つ人達の集まりでして、そういう人達の嗜好に応じた寸劇を目の前で実演するいう趣向の倶楽部です。」

「基本的には、お仕置きプレイが多いですが・・」
「一番人気は、やはり、浣腸モノでしょうか?」
「私自身も会員の一人でして、私の場合は主にスパンキング、つまりお尻叩きを好みます。」

「世の中、この他にもたくさんのフェチを持つ人達がいますが、当倶楽部は”羞恥に悶えることができるか?”を判断基準にしてプレイ内容のリクエストを受け付けています。」

「従って、残虐さを感じるプレイ、嫌悪感を覚えるプレイは受付ていません。」
「また、本番行為、つまりセックスを伴うプレイもほとんどありません。」
「当倶楽部の会員様は、そういう普通のセックスには興味ない方が多いですし、女性の会員様も、いらっしゃいますので。」

「なので、有村さんも安心して私どもに身を任せてください。」
「有村さんの場合は、現役女子大生という立場を活かしたストーリーになるかな?」
「あるいは、OLや中高生の役も出来そうですね。」
「まあ、スパンキングは必ずあるものとして覚悟しておいてください。」

そう言ってニッコリ微笑む俺を、彼女は強張った表情で見つめ返した後、視線を落とし、「はい・・・」と小さな声で承諾の意を表した。

心なしか目が潤み、無意識に股間をギュッと両手で押さえている。

(言葉を聞いただけで感じている・・・!?)
俺はその姿を見て、早くも頭の中でストーリーを描き始めていた。

「では、契約書を・・」
と、言いながら、テーブルに置いた書類ケースの中から契約書を取りだした。

「内容を確認の上、ここに住所と氏名を書いて、捺印してください。」
「印鑑がなければ、拇印で結構ですよ。」

そう言いながら、彼女の前に契約書を置くと、彼女は100万円と書かれた金額だけを確認して、記入を始めた。

彼女が拇印を押した後、指を拭うティッシュを渡すと、俺は彼女の前にある契約書を手許に引き寄せた。

「じゃあ、これ以降のやりとりは、基本LINEで行ないます。」
「あと、念のために確認しますが、ここに書かれた住所氏名に間違いや嘘偽りはありませんね?」
「いや、時々いるんでね。偽名を使う子が。」

そう俺が聞くと、彼女は一瞬、ギクッとしたような雰囲気を出したが、すぐに、「はい・・」と言葉少なく頷いた。

俺は、その様子を観察しながら思う所があったが、何も言わなかった。

表の仕事で採用の場合は、必ず、身分を証明できるものを提示させるが、秘密倶楽部の場合は、お金の動きも表には出していないし、全てが闇の中なので偽名でも構わなかった。

契約書も相手に支払いを確約して安心させ、また、「お仕事」という意識を持ってもらう為の小道具に過ぎない。

ただ、それはそれとして、やはり信用されていないと思うと気分は良くない。
なので、そのツケは本番で払って貰うことにしている。

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